秋の到来を知らせる乾いた風から思うこと

季節の変わり目に吹く風や雨に心奪われることがあります。ついこの間読んだ小説には夏の終わりを告げる強い風が吹く架空の町が描かれていました。湿り気一つない強風はどこからともなく色々なものを運び、幾日も吹き続けます。そこに住む人々はこれを合図に楽しかった夏の終わりを知るのでした。こうした情景からどこにあるのかも分からない川と山に囲まれたこの町は殺伐としていながらも四季の訪れがあることで温かみを帯びていると感じました。同時に終わりゆく夏の寂しさよりも移りゆく季節があることにどこか安堵を覚えたのでした。停滞しないこと、今ある状況が進化してゆくことは暮らしに変化をもたらす大きな役割を担います。それを感じることは生きている証なのだと思いました。
日々の暮らしはいつも同じように見えますが、着実に移ろいでいるのです。それは心のかすかな動きや気候によってもたらされる感情の変化などから察することも多いものです。もし私があの小説の舞台となった町で生活をしていたら、秋の訪れは新しい生活の始まりだと悟り凛とした心持になるような気がします。乾いた風も湿った空気も今を生きるからこそ感じることができることだと考えると、身の回りにある全てのものに愛おしさが湧いてくるのでした。