小説の面白さの一つに、「思いがけないラストシーン」があります。それは映画などの映像作品でも同じことが言えるかもしれません。最後まで息を着かせない程に馳走するストーリーの果てにある読者を裏切るような驚愕のラストは、完読しても余韻を残して胸の奥にいつまでも存在し続けるものです。
つい最近読んだミステリーも、切なくも驚きの結末が待ち受けていました。辛くも悲しい愛の物語は美しく幕を閉じると思ったのも束の間、皮肉にも人間の奥にある闇を暴いて終わりを向かえました。男女の三角関係の末、愛する男を殺した女性と共に逃避行したヒロインは、人里離れた島で隠れるように暮らし亡くなります。若い頃の悲恋と逃避行を胸にしまっておけず、死ぬ前にそのことを書き記し出版社へ送ります。そこには共に暮らしたロシアを亡命した女性のことが書かれていました。死ぬ前に書かれた出版社への記事はかつての恋敵でもあった彼女への復習だと強く感じたものです。勇敢で優しく強いヒロインでしたが、ふと覗かせた心の闇に勝つことは出来なかったのでしょう。しかし亡くなる前に復讐を後悔したためか、あの時送った原稿は全てウソだったという手紙を書くのですが命が着きそれを送ることなく物語は幕を閉じるのでした。
人間はそんなに強くないし、心の闇に勝てないこともあるのです。この作品は決して美談で終わらせず、闇の奥にある残酷さを突きつけたのでした。そして人の弱さやはかなさは読者である私の心に深く刻まれ、忘れられない作品として心にあり続けています。