独特な世界観を持った小説が好きです。抽象的で不思議な物語は読み手をどこか遠い町へと連れて行ってくれるからです。昨日読み終えた小説は、どこかにありそうでどこにもないところにある芸術家が集まる家を舞台にした作品でした。登場人物は少なく名前すら持っていません。またそれぞれがどんな生き方をしてきたのかも詳しくは書かれてはいませんでした。しかし読み進めてゆくうちにしっとりと心の中に作品の情景が広がってゆくことを感じます。それはまるで美しい絵画や写真を眺めているような感覚にも似ていました。
ひと夏の「家」を舞台に主人公の青年と少女と動物とそこに集まる人々との出来事が淡々と表現されており、そこには「生」と「死」と「踏み込むことが好ましくない秘密」がありました。ラストに起こる「死」からは夏の終わりを感じ、時の流れや命のはかなさを知りました。そこには死に対する悲しみよりもまた巡ってくる夏についてのことが頭に浮かび、生きるとは余儀なくされる出来事を受け入れてゆくことだと思ったのでした。
この作品を読んでいる間どこか遠くへ旅をしていたように感じていたためか、完読した時はひと夏の思い出に浸るようなセンチメンタルな気分になったものです。そして必然的に明日がやってくることを知り、自分もまたこの世界で生き続けるだと強く思ったのでした。