イマジネーションを掻き立てられる小説が最近のお気に入りです。以前はどちらかというと起承転結がしっかりとしたストーリーを好んで読んでいたように思います。しかしながらいつの日からかひっそりと心の中に響き渡るような余韻が残るような、抽象的な小説を手に取るようになりました。そのきっかけとなったのは、海外文学の翻訳も手掛ける男性作家の短編小説に出会ってからです。淡々としていながらも言葉が身に染みる描写は、登場人物の心情やエンディングの後に続くだろうストーリーを想像させる楽しみを与えてくれたのでした。
今読んでいる小説もまたそんな余韻が残る寓話のような物語です。海外旅行中に人質となった日本人達が一人ずつ囲われている場所で朗読会をすることになり、その話が集められた作品です。彼らが語る話はこの世に起こっていることですが、どれも私が生きている次元ではないところで起きたことのような感覚を抱かせます。またどのエピソードにも死や別れが散りばめられており、それらが自然の営みとして私達の生活に根付いていることを気付かせてくれるのです。ドラマティックな展開をみせるわけではありませんが、一度読み始めるとなかなか本を閉じることが出来ないくらいに、どっぷりと作品の中に身を置くような楽しみを味わうことができる心地よい作品だと感じています。