洋裁と辛辣な会話と女の園

洋裁教室を営んでいる家族を描いた小説を読んでいます。この作品は女系家族の中にいる息子の視点で語られており、彼の目線がとても繊細でしなやかなところがお気に入りでもあります。父は彼が幼い頃に買い物に行ったまま帰ってこず、祖母と母が洋裁を生業にして生計を経てています。二人が作る洋服はとても凝っていて、ワンピースやウェデングドレスのデザインがとても丁寧に描かれています。そのためじっくりと読み、登場するお洋服達がどんなものなのかを想像することに余念がありません。ウェストのギャザーの寄せ方や袖や丈など、工夫されたデザインはハンドメイドならではの魅力だと感じます。もしこんなお教室が近所にあったなら、私も通っていたかもしれません。
この小説は戦後まもない時代を描いており、当時の女性達にとって裁縫は今よりも事欠かせない存在だったのだと感じました。確かに私の知人の年上の女性達の中にも、若い頃お教室に通っていた方々が何人もおります。そして今もなお、自分でチュニックやスカートを縫い続けていることを聞くと「お裁縫が出来るって素敵」と感じるものです。
さてこの小説に出てくる女性達はけっこう辛口です。お客様や当時の映画のヒロインに対してもかなり辛辣なことを言います。これもまた今も昔も変わらない、日常的な光景だと思うものです。しかしながら、この小説に出てくる毒舌はただ辛いだけではなくユーモラスと知的さが散りばめられており、思わずニヤリとしてしまうことも少なくありません。同時に子供の頃に母に連れられて行った近所のおうちで、おやつを食べながら大人達がおしゃべりしていた光景が頭に浮かぶのでした。