道を歩いている時やふと窓を開けた時に季節の移り変わりを感じることがあります。それは空に浮かぶ雲の形であったり、どこからか漂ってくる植物の香りであったりと様々ですが、変わりゆく四季を肌で感じると気持ちが研ぎ澄まされるものです。
今読んでいる小説には、下町で暮らす主人公が五感で感じる季節がとても丁寧に記されています。金木犀、桜、睡蓮などで表現される描写は、まるで私が物語の中にすっぽりと入って肌で感じているような気持ちにさせてくれます。作品の中で私が最も印象的だったのは「くちなし」について書かれた描写でした。この花は白くて可愛らしくてとってもよい匂いがします。6月の入梅時期に花が咲くため、くちなしの香りが遠くから漂ってきたことで雨の季節が到来したことを知ることもしばしばです。こんなにもくちなしが心にあるのは、今から3年ほど前の6月に苗木を購入したからかもしれません。たまたま通りかかったフラワーショップの軒先に売られていた小さな鉢に植わった苗木に魅了され買いました。日当たりがよい窓辺で育てていたこともあり、翌年可憐な花を咲かせ私の部屋はとってもよい香りに包まれたのでした。そしてこの小説を読んでいたら、無性にあの香りが恋しくなりました。いつの日かまたしっとりと咲く可憐な花に出会えることを楽しみに日々の生活を送っております。